産業医のみなさん、こんにちは。カナダで隠居中のカステラ@Rainha_Castella です。今日も安全な場所から匿名でテキトーなことを呟いております。
全日空が風疹・はしかの予防接種を従業員全員対象に始めたというニュース読んで、いてもたってもいられなくて、以下のツイートしたのが2週間前。
https://twitter.com/Rainha_Castella/status/1125027871670583296
NHKのニュース記事には以下からも直接飛べます。
ガチ産業医のみなさんは、とっくに色々と手をうってると思うのですが、ちょっと色々思うことあり、長めに呟いてみます。
目次でサクッと把握
麻疹風疹(できれば流行性耳下腺炎も)予防を職域で行うことの意味
「従業員が個人でやればいいんじゃない?」ですって?
そ、そうですね。おっしゃる通り。従業員が個人でやってもいいんですよ。もうほんと、その通り。
でもね、きっとね、それできる人は、とっくにやっている。
「地域の公衆衛生は行政の仕事でしょ!」ですって?
わかります、わかります。お気持ちわかります。一部自治体では、既に行政主導でやってるし、そうして欲しいですよね。もうホント、その通り!
「貴重な就業時間とお金使ってやるのヤダ!」ですって?
そうですよね。本来は企業でやらなくても済むはずのことですよね。それに従業員が麻疹や風疹に罹患するのは企業のせいではないですよね。っていうか、正直、事業者にばかり過度の責任を負わせるのも如何なものかとも思ってます。
分かってるんです。でも、そこを敢えてご提案しております。理由は以下の4つ。
職域で予防することの意味1:人と接することの多い職場での従業員の感染を防ぎ、安全配慮義務を果たす
病院や保育園など、麻疹風疹流行性耳下腺炎に感染する可能性が高い職場では、従業員への安全配慮義務の観点から職域での集団予防の導入を考慮すべきです。
例えば、抗体検査等で風疹の免疫持ってない妊娠中の従業員が、風疹感染のリスクの高い業務に従事して感染して子供に健康影響があったら、麻疹感染のリスクの低い業務に配置しなかったとことに関して事業者の民事責任が問われる可能性があります。
*ただ、日本のシステムには今の所ねじれがあります。事業者が「新たに」健康情報を得ると、その内容に応じた安全配慮義務が「新たに」生じるんですよね。例えば、麻疹の抗体持ってるかどうか知らなければ、配置考慮せずに済むのに、知ってしまうと配置を考慮しなくてはなりません。ご提案するときは、この部分の説明を事業者にする必要があります。
*福利厚生の一環で検査を行なった場合は、抗体価を知りようがないので、この限りではないけど、本人が言ってくれないと対応のしようがなくなってしまいます。また、本人の免疫が十分なものになるまで、配置換えを希望した時に、速やかに配置換えできる仕組みは整えておかなくてはなりません。
*上に関連して「従業員を大切にすることが、顧客を大切にすることにつながること」は併せてアピールした方がよいでしょう。
職域で予防することの意味2:企業内での大流行を防ぎ、イメージ低下を防ぎ、あわよくば企業イメージの向上を!
「企業内での流行を防ぎ、イメージ低下を防ぎ、あわよくば企業イメージの向上を狙うこと」。コレですよ、コレ。
産業医側からは、ホントは従業員の安全健康Firstなんだけど、「顧客を大切にしていることのアピール」「企業にとってのメリット」「リスク回避」の側面も併せて提案しましょう。
特に、病院や保育園など、たくさんの人に接する職場なら、麻疹風疹の抗体検査や予防接種は集団で接種する取り組むことで、顧客の健康を守ることになるということは主張するべき、実際そうなんだし。
っていうか、病院とか保育園で職員間で麻疹風疹大発生するとダメージ大きすぎ。想像しただけで、ガクガクブルブルしませんか?
あ? 保険? 入っとこうね。民間医局などから加入できる医師賠償責任保険は産業医活動への補償もカバーしてます(民間医局に限らず、医師会や学会などから入れる保険も産業医活動をカバーしてますので念の為)。以下広告をぺたり。
麻疹や風疹の予防接種はインフルエンザの予防接種と比べると効果が分かりやすく、ワクチン接種した集団でこれらが大流行することは、まずない…と思いますが、万一発生した場合でも、予防対策をきちんと行っていたということで、マイナスイメージを避けることができます。
さらにっ、全日空が同業他社に先んじて従業員に麻疹風疹の予防接種の取り組みを見せたことで、企業イメージアップしたように、アナタの会社イメージもアップ…する…かも、しれない(あくまでも個人の意見です😎)。
職域で予防することの意味3:麻疹風疹による病欠をフツーに防げる
当然ですが、麻疹風疹が大流行すれば、麻疹風疹に罹患する従業員もいるでしょう、ワクチンは麻疹風疹への罹患を予防しそれによる病欠を防ぐこともできます(当たり前だ!)。また、麻疹風疹を家族のメンバーにうつしてしまうこともなくなるので、看病のために十分に仕事ができない問題も予防できます。
職域で予防することの意味4:従業員が「検査や予防接種」のために使う時間を節約できる
麻疹風疹の抗体検査や予防接種って、ユーザー視点からすると、めちゃくちゃ面倒臭いです。ほら、私、今、医者殆どやってないから、医療ユーザー寄りなわけ。
まず、ここ読もう、このブログ。ブログ主さんはご自身のこと「どろっぽ医」って書いてるけど、彼女みたいにちゃんと研修を重ねたかった医師が専門医制度から漏れちゃう今の制度ってどうよ…というのはさておき、助成をうけて予防接種を受けるのがどんなに大変か以下の記事からもわかるというもの。
上のブログ記事の方が面白いけど、MMR予防接種にたどり着くまでのフローをまとめると以下の通り。
- 大人になってからでもMMR受けた方がいいんだ! と、気づき予防接種を受ける気になる
- クリニックや病院ならどこでも受けられるわけじゃないことに気づく! (気づかない人はうっかりそのまま医療機関に行ってしまい、心が折れる)
- MMR接種してくれる医療機関を調べる:例えば福岡県に住んでいる場合は、福岡県xMMRx大人などで検索する、あるいは、最寄りの保健所に問い合わせる、など。(調べ方がわからない人はここで心が折れる)
- 必要書類に書き込んでハンコ押して問い合わせ先にFAXやEmailで送付(ハンコがなかったり、FAXやスキャナーがなかったりするとここで心が折れる)
- MMR接種してくれる医療機関に予約の電話をしたうえで、「依頼書」をもって受診。予防接種を受け、いったん自己負担(うっかり予約せずに行くと予防接種の在庫がないことがあり、心が折れる)
- 医療機関を受診、善意で抗体検査を勧められる。(抗体検査受けると、結果判定までに1週間程度かかり、時間のない人はここで心が折れる)
*抗体検査はワクチン接種より安く、1,500〜2,000円くらいで検査できるので、時間がある人には抗体検査はオススメです。
*時間のない場合は、抗体検査せずにMMR接種してよいので念の為。すでに免疫を持っている人がその上に接種を受けても、特別な副反応がおこるなどの問題はありません。 - もういちど、仕事のやりくりして、予防接種受けに行く(自費で行う場合9000円程度、お値段が思ったより高くて、ここで心が折れる人も)
- 医療機関が善意で当該ワクチン以外のワクチンうつと(例えば、風疹の予防注射のついでに、まるっとMMR(麻疹や流行性耳下腺炎含む)助成が受けられないことがあり、ここで心が折れる人も)
- しかも、医療機関の人が制度知らなかったりして、ここまで来るの大変で心折れる。
今の仕組みだと、コレ全部、働く人が休日とか休み時間とか使って、個人でやらなくちゃならない。ただただ面倒臭い。
産業医が企業に提案して、職域で抗体検査うけられたり予防接種を楽に受けられたりするための「仕組み」を作ることができれば、たくさんの人の「面倒臭くて心折れる現象」を減らすことができます。それってすごくないですか?
職域での麻疹風疹(できれば流行性耳下腺炎も)予防施策導入するためのヒント
予防施策導入するためのヒント1:お金問題をなんとかしよう
職域で麻疹風疹の予防施策受けられるようにする!って方向決定するだけでも、めっちゃ勇気いるのに、お金かかりすぎると企業は躊躇することでしょう。本当は行政主導でやって欲しいことなのに、企業にここまで負担かけなきゃいけない? とは、私も思う。うん、思う。
そう、抗体検査やMMRは時間も取られますが、お金もかかります。
- 抗体検査は1,500~2,000円程度
- MMR(麻疹流行性耳下腺炎風疹)は9,000円〜15,000円程度
でも、自治体にもよりますが、助成金がでるところもある。(でもね、風疹だけに助成のある自治体でうっかりMMR全部検査したり予防接種受けたりすると助成自体が受けられなくなったりすることもあるのよ、きーーーーーーーっ。)
- 抗体検査に1,000〜1,500円あるいは実費助成
- MMR接種に9,000〜10,000円あるいは実費の助成
できればこういうの利用したい!
まずは、自治体や保健所に相談
上にも書いたように、自治体によっては、「個人で」予防接種する分には、補助金がでるところもあります。そういうのを企業の誰かが一括でとりまとめて利用できないか、自治体や保健所に相談してみましょう。
また、「風疹だけに助成のある自治体」でうっかりMMR全部検査したり予防接種受けたりすると助成自体が受けられなくなったりするのでそこのところ要確認です(大抵は差額払えばOKとかなんだけど)。
所属の健保組合にも相談
健保組合によっては、予防接種などの予防活動に補助がでる場合もあります。こっちの方が援助もらいやすいです。ただし、通常、①自治体からの補助より額が少ない+②自治体等の援助との併用はできないので、そこのとこも、良く調べましょう。ただし、福利厚生の一環としておこなうなら、こっちの方がオススメ度高いです。
地域の産業保健総合支援センターに相談
地域の産業保健総合支援センターには、しばしば産業保健の剛の者がいます。で、大抵、地域の公衆衛生やってる偉い人と繋がってます。
地元企業での先例の中で近い案件はないか、同業他社がどのようにお金問題の工面したかの情報も持っています。もしかしたら、今までは助成の対象じゃなかったも、相談にいくことで、新しい「助成や支援」ができちゃうかもよ?
剛の者がいなかったらゴメン。
予防接種導入するためのヒント2:ワクチンが嫌な人には無理強いしない方針で、しかし情報はしっかりさらっと渡そう
ワクチンに抵抗ある人は一定数存在します。そういう人が、ワクチン受けなくても咎められたりせず、華麗にスルーできる仕組みも同時に作ってください。本当はしっかりワクチン受けて欲しいけど、行政側で義務化していないことを一企業で義務のように扱うのは避けた方が無難です。あと、わかっていると思いますが、抗体検査する場合は、個人情報のお取り扱いにも注意ね。
大切なことなので、何度も言いますが、みなさん、健康になるために働きに来ているわけではありません。健康な人の健康情報は、病院の患者さんの健康情報以上に「神経質なくらいに」取り扱ってください!
ただし、産業医の役割として、従業員に疾病予防情報はしっかりさらっと渡してね。事業主側には安全配慮義務がありますから!
なお、カナダでは公的ガイドライン(Canadian Immunization Guide: Part 3 – Vaccination of Specific Populations, Immunization of Workers)に病院職員や子供相手の仕事は麻疹、流行性耳下腺炎、風疹の抗体を持ってることが望ましいと明記されています。罰則を伴うものではありませんが、企業によっては、入職前に抗体価が基準に満たない場合は予防接種して抗体が確認されるまで働けないこともありますよ。厚労省やそれに準じるお役所でこういうの出してくれると、企業は身動き取りやすいんだけどなぁ…。
予防接種導入するためのヒント3:情報がまとまってるのはココ!
自分で根気よく探せば、いくらでも良い情報にたどり着きますが、あるものは活用しましょう。米国国立研究所(NIH)で研究されてる峰宗太郎先生が、とっても良いまとめページ作ってくれています。ありがたや〜🙏🙏🙏。理論武装にどうぞ。なお、峰宗太郎先生のWebページは、私が勝手に素敵😍と思い勝手に紹介しているので、くれぐれもご迷惑をおかけしないように!
読む時間のない従業員のみなさん向けには、コチラも活用してね。読みやすいけど、過不足も手加減もなくキッチリインタビューに答えてるのってやっぱり峰宗太郎先生すごい、あとインタビュアーの和久井香菜子さんもすごい(密かに注目してます)。
女子spa! ワクチンは必要?反ワクチン派はおかしい?専門家にゼロから聞く
まとめ:産業医の役割は、職域で予防接種することじゃなくて、働く人が健康を維持しやすい仕組みを作ること
間違えて欲しくないのですが、産業医のお仕事は、職域で予防接種することじゃなくて、「働く人が健康を維持しやすい仕組みを作る」ことです。
だから、麻疹風疹を予防するに当たっても、必ずしも職域で予防接種することにこだわらなくてもOK。あらら、タイトルとの整合性が…。ま、いいか。
その代わりと言っちゃなんですが、どうやったら会社の人の麻疹風疹が「できるだけ」防げるのか、一生懸命考えてほすぃ。そして、産業医として「ブレずに」会社の偉い人や総務や安全衛生担当の人に相談&提案してほすぃ。です。
ってことで、もう一度、峰宗太郎先生のブログへご案内。
広告風ですが、峰宗太郎先生に何かもらっているわけではありません。むしろ、こんな怪しげなブログで紹介して風評被害を出してしまったらどうしようとビクビクしてるので、くれぐれも峰先生にはご迷惑をおかけしないように!
最後にもう一度、広告も。民間医局などから加入できる医師賠償責任保険は産業医活動への補償もカバーしてます(もちろん、他の経由で入った医師賠償責任保険も産業医活動までカバーしてるよ!)。こちらから民間医局経由で医師賠償責任保険に加入すると、「私」に広告料が入ります❤️ 私に広告料が入るのがどうしても嫌な方は、医師賠償責任保険で検索して自分で加入ね。
コメントを残す