どうも、ご無沙汰しております。
3日前まで日本に一時帰国して遊び呆けてたカステラ女王様@Rainha_Castellaです。
主に、ハウステンボスとかハウステンボスとかハウステンボスに行ってました。
そしたら、その間に東京医大の報道。
この件については、お問い合わせフォーム経由でたくさん質問をいただいたのですが、ほとぼりが冷めて、世の中がこの件に飽きた頃にこっそり記事掲載することで、お返事に代えさせてください。なんか、質問が山ほどきて、びびっております。
さて、今回の問題(?)の1つに、「女性医師が増えると脳外科医や心臓外科医などの医師が足りなくなり、医療崩壊が進む」という信仰があるようなので、本当かどうか検証してみました。と、言っても、日加の比較ですけどね。
目次でサクッと把握
長文読むのが嫌いな人のためのまとめ
- 女性医師で脳外科や心臓外科を選ぶ人は、日加両国で確かに少ない
- 日本の脳外科医&心臓外科医はカナダの脳外科医&心臓外科医に比べて、人口当たり2 ~5 倍。
- 日本の脳外科医&心臓外科医の手術数はカナダの脳外科医&心臓外科医に比べて、1人当たり1/2 ~1/5
- 人口あたりの専門医数、専門医1人あたりの手術数から推測すると、日本の脳外科医&心臓外科医には、年に数回しか執刀しない医師が25%ほどいることになる
- 脳外科医や心臓外科医が、本来の仕事にきちんと従事できるのなら、脳外科医&心臓外科医はそんなにたくさんいらないのかもしれない
- 女性医師が100%になったとしても、カナダと同水準の専門医数なら、数的な辻褄は合う
脳外科や心臓外科に女性医師が少ないのは日加両方で本当
表1は、男女医師の割合を示してます。後ろに付け足した表は人口あたりの医師数ね。
日本では脳外科医&心臓外科医の94%は男性
日本では、
脳外科医(病院勤務医)は6232人[男性5858人(94%)、女性374(6%)] です。
心臓外科医(病院勤務医)は3046人[男性2857(93.8%) 女性189(6.2%)] です。
カナダでは脳外科医&心臓外科医の90%は男性
カナダでは、
脳外科医(病院勤務医)は324人[男性290人(89.5%)、女性34(10.5%)] です。
心臓外科医(病院勤務医)は362人[男性323(89.2%) 女性39(10.8%)] です。
脳外科や心臓外科を選ぶ女性医師が少ないのも日加両方で本当
表2は、男女勤務医の何%が各診療科にいるかを示しています。
日本の病院勤務医男性は女性の4.25倍脳外科医を選びやすく、4.5倍心臓外科医を選びやすい
日本では病院に勤務する男性医師の3.7%、女性医師の0.8%が脳外科医を選んでいます。同様に病院に勤務する男性医師の1.8%、女性医師の0.4%が心臓外科医を選んでいます。
つまり、日本の病院勤務医男性は女性の4.25倍脳外科医を選びやすく、4.5倍心臓外科医を選びやすいことになります。
カナダの男性医師は女性医師の6倍脳外科医を選びやすく、7倍心臓外科医を選びやすい
カナダでは男性医師の0.6%、女性医師の0.1%が脳外科医を選んでいます。同様に病院に勤務する男性医師の0.7%、女性医師の0.1%が心臓外科医を選んでいます。
つまり、カナダの男性医師は女性医師の6倍脳外科医を選びやすく、7倍心臓外科医を選びやすいことになります。
それでも日本の女性医師は、カナダの女性医師の8倍多く脳外科医を選び、4倍多く心臓外科医を選んでいる
何科を選ぶかはお互いに拮抗し合うので単純比較は不正確ですが、あえて単純に比較。
日本の女性医師の0.8%、カナダの女性医師の0.1%が脳外科を選んでいます。つまり、日本の女性医師は、カナダの女性医師より8倍多く脳外科のキャリアを選んでいます(正確に言うと違う)。
そして、日本の女性医師の0.4%、カナダの女性医師の0.1%が心臓外科を選んでいます。つまり、日本の女性医師は、カナダの女性医師より4倍多く心臓外科のキャリアを選んでいます(正確に言うと違う)。
正直、カナダは日本に比べると、女性が働きやすい国です。男性も働きやすいですけどね。
で、女性が働きやすいはずのカナダの女性よりも、日本の女性医師は脳外科や心臓外科を選んでいる。
このことは、はっきりさせておきたい。何かと女性が働きにくい日本で、日本の女性医師がカナダの女性医師よりも脳外科や心臓外科を選んでいることは、もっと知られてもいいと思うのです。
なお、同じように比較した場合、日本の男性医師はカナダの6倍脳外科を選び、2.6倍心臓外科を選んでいます。カナダの脳外科や心臓外科は他科に比べると収入が高いのですが、日本の脳外科も心臓外科は大して高くありません。それでも、日本の男性医師も女性医師も、これらの科を選んでいます。
各科の必要人数を計算するのは難しいが、日本の脳外科医と心臓外科医は現在多すぎるのかも知れない
日本の人口あたりの脳外科医はカナダの5.7倍、心臓外科医は2.4倍
表1の右端には、人口あたりの医師数を掲載しています。再掲します。
日本では、人口10万人あたりの脳外科医は4.92人、心臓外科医は2.40人です。
カナダでは、人口10万人あたりの脳外科医は0.82人、心臓外科医は0.98人です。
つまり、日本の人口あたりの脳外科医はカナダの5.7倍、心臓外科医は2.4倍です。
日本の脳血管疾病死亡1000人あたりの脳外科医はカナダの2.3倍、心疾患死亡者1000人あたりの心臓外科医は2.2倍
本当は、同じ年度の手術数と専門医数使って比較するべきなのですが、とりあえず傾向ってことで、死因で代用(代用にならんけど)。表3がそれです。
脳血管疾患による死亡数と専門医数の率比は日本が2.3倍
脳腫瘍による死亡も探したのですが、うまく見つからず、脳血管疾患だけになってしまいました。日本では脳血管疾患死亡1000人に対して脳外科医は55.7人、カナダでは23.9人。つまり日本は2.3倍ほど専門医が充実していることになります。
心疾患による死亡数と専門医数の率比は日本が2.2倍
心疾患(高血圧症以外)死亡1000人に対して、心臓外科医は15.5人、カナダは7.0人。つまり日本は2.2倍ほど専門医が充実していることになります。
うーん、死因と専門医数でみると、日本はカナダの2倍強、専門医の数は充実しているようですね。
手術数の資料を無理やり探して再比較しても、日本はやはり脳外&心外の数は多すぎるかもしれない
死亡した脳血管疾病や心疾患全てに手術をしたわけではないだろうし、手術をしたからこそ死亡統計に載らずに済んだものもあるでしょう。日本とカナダで同じ適応で手術しているかどうかも今ひとつわかりません。さらに、少子高齢化の日本と、移民がガンガンやってくるカナダでは疾病頻度も違います。
そういうわけで、やはり、手術数がどうしても見たい! と、探したら、一部見つかりましたので、それを元に専門医1人あたりの手術数の表作ってみました(資料は後半部分で紹介)。
手術数については、嘘書くつもりは全然ないのですが、間違っているかもしれません。カナダの脳外科の手術数はカルガリー大脳外科の資料しか見つからなかったので、これを元に推測しました(手術数の値が2つあるのはこのためです)。
あと、うっかり専門医って書いちゃったけど、日本側の医師は専門医じゃなくて、「脳外科」「心臓外科」に所属している医師数です(全部書いてから気づいた)。専門医の数は、日本専門医制評価認定機構によれば、脳神経外科専門医で7207名、心臓血管外科専門医で1880名です。
さて、かなり戸惑うのが、日本の専門医の手術数の少なさです。私の勝手な印象ですが、日本の医師って、カナダの医師よりずっと忙しいのです。でも、専門医1人あたりの手術数はカナダの1/2〜1/5です。
つまり言い換えると、色々計算した結果、人口あたりの人数でみても、手術数からみても、現在の脳外科医や心臓外科医は多すぎるのかもしれないってこと。
私は外科医をやったことが人生で一度もないので、日本の実態すらもわからないのだけど、この表が大きく間違っていないとすると、日本には、手術を年に1〜2度しかしない脳外科医や心臓外科医が20〜25%ほどいることになるし、日本の専門医の年間手術数の中央値は、脳外で60件、心外で40件くらいって推測できちゃうんですけど、ホントなのかなこれ? 自分で自分を疑っちゃうレベルです
女医は脳外科や心臓外科にならないから数を制限するって議論より、先にすることがあるんじゃね?
誰か、頭がいい人、再計算して!
日本の脳外科手術数:212000件くらい(2013年度データ)
日本の心臓外科手術数:66000件くらい(2014年度データ)
カナダの脳外科手術数:23000〜47000件くらい(私の勝手な推測値)
カナダの脳外科手術数を探し出すことはできませんでしたが、カルガリー大学の脳外科手術数が検索できました(以下証拠)。
で、カナダ自体に日本と比較し若年層が多いこと、カルガリーはカナダの中でも特に若年者+その子供が多く、手術適応となる脳神経疾病が多そうなこと、カルガリーのあるアルバータ州に脳外科医が37人いて、カルガリー大学とエドモントン大学にだいたい同数いることなどから推測しました。でも、そんなに外れてない…と思います(ハナホジ)。
カナダの心臓外科手術数:39000件くらい(2014年データ)
人口あたりの専門医数and/or専門医1人あたりの手術数をカナダ並にした場合、医師が100%女性になってもモーマンタイ…かもしれない
いや、乱暴なこと言ってるのはわかってますよ。女性医師は、出産や子育てしてる間のほんの数年間、活動性おちますもんね。子育てはともかく、出産は女性にしかできませんものね。私みたいにやる気なくて医者やめちゃう医者もいるかもしれないしね。同世代で私より医者やってない女性医師みたことないですけどね。
それに、日本だと、例え専門医であったとしても手術だけしていればいい病院は少ないのも知ってます。
だけど、この表を出さずにはいられない。
上に出した表5は、勤務医が200,000人いて、男女別の専門の選択率が同じだったと仮定した場合の専門医の数です。
現在、男性医師の3.7%&女性医師の0.8%が脳外科医になります。この割合のまま専門を選ぶと仮定した場合、男:女=0:1になった場合(そんなことは起こらないと思うけど)、脳外科医は1600人になるということです。
カナダの人口比(同時に手術数比でもある)と同割合で専門医が必要と仮定した場合、必要な脳外科医は769人ですから、男性医師がゼロになってもそれより多い1600人が脳外科医として存在しうるということになります。
つまり!
医師の全てが女性医師でも!
脳外科医も心臓外科医も
数的にはモーマンタイ!
日本とカナダじゃ、働き方も違うし、専門医に期待されていることも違うのはわかってる。日本の脳外科医はカナダだと放射線科医や神経内科医が担っている脳梗塞なども診ているいることも知っている。
けど、外科の先生って、手術したくて外科を選んだ先生が多いはず。それなのに、症例数を積めず、(恐らく)雑用ばかりに追われて、中には年に数例しか手術できずに埋もれてしまう医師は男性女性問わず多いのではないかと想像してしまう数字です、コレ。
逆に言えば、女性医師の数調節するんじゃなくて、他にすることがあるんじゃないの?ってこと。
おまけ:地域格差はカナダでも問題
医師数や専門医数について語る時、絶対数だけでなくその偏在や地域格差について必ず議論されるし、それは当然です。
で、私が住むOntario州の広さは1,076,000 km²で日本の約3倍。Newfoundland/Labrador州の広さは405,212 km²で、日本377,972 km²よりほんのり広いです♥ この広い野原いっぱい咲く花を一つ残らずあなたにあげる♪
何が言いたいかというと、「カナダの地域格差を見ると、日本の地域格差なんてないに等しい」ということです。Newfoundland/Labrador州なんて、日本より広いのに州に脳外科医2人しかいないから!
まとめ:専門医に専門医の仕事をさせれば、医師の全てが女性でも脳外科医も心臓外科医も足りる(はず)
- 女性医師で脳外科や心臓外科を選ぶ人は、日加両国で確かに少ない
- 日本の脳外科医&心臓外科医はカナダの脳外科医&心臓外科医に比べて、人口当たり2 ~5 倍。
- 日本の脳外科医&心臓外科医の手術数はカナダの脳外科医&心臓外科医に比べて、1人当たり1/2 ~1/5
- 人口あたりの専門医数、専門医1人あたりの手術数から推測すると、日本の脳外科医&心臓外科医には、年に数回しか執刀しない医師が25%ほどいることになる
- 専門医に専門医の仕事をさせれば、医師の100%が女性であっても脳外科医も心臓外科医も足りる(はず)
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参考文献&参考資料
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人口推計(平成29年10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐, 厚生労働省: http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2017np/index.html (2018年8月18日参照)
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Table 1-28 The 5 leading causes of death by sex , by age group, Part 1 Population and households (Excel:88KB), Handbook of Health and Welfare Statistics 2016, 厚生労働省 ; https://www.mhlw.go.jp/english/database/db-hh/1-2.html (2018年8月18日参照)
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Annual report by The Japanese Association for Thoracic Surgery (2016) , 日本胸部外科学会 : http://www.jpats.org/uploads/uploads/files/Annual_report_2014.pdf (2018年8月18日参照)
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